チャプチャプという水音とともにジャズがうすく流れている。
月山の麓にひっそりと佇む工房は、静かで集中出来る環境だった。
大井沢にて月山和紙を守ってきた職人三浦さんは、この地に来てから24年になるという、
穏やかな工房で紙を漉き続ける三浦さんに話を聞いた。
集中できる環境が必要だった。
昔、あるおじいちゃんの話を聞くと、紙漉く時って朝方というか、夜とか暗いうちに紙漉きするんだって。で、朝飯食って、9時とか10時くらいに紙漉きが終わるように。集中できるから。
紙を漉いている時に、何に集中しているかというと、俺は厚さ。今日はこの厚さの紙を漉こうと思って、枚数にすれば200枚くらいしか作れないけど。200回は同じ気持ちで作らないといけない。同じ気持ちっていうか、同じ厚さにならないといけないから。そこは集中したい。紙は厚さがすごく大事なんですよ。だから、紙漉く時は雑音が入ってくると邪魔だと思います。
山の水でつくられる。それが月山和紙。
手漉き和紙において、一番大事なのは、水ですね。水にはいろんな条件があるんですよ。軟水じゃないとダメだとか。
硬水だとかカルシウムとかマグネシウムとかその成分が多いと、トロロアオイの粘液が粘りがなくなってしまうんです。
今の月山和紙の水は、月山というよりかは、朝日連峰から来たもの。水道って言っても山の湧き水を一か所に集めて、そこから全戸に配ってる簡易水道なんですよ。だから自然の水を使ってる。
普通の湧き水ってプラス10度ちょっとくらいじゃないですか。あれくらいでいい。一番いいのは4度。4度っていうのが一番水の分子が小さくなるのかな。あったまると水って膨張するじゃないですか。凍る時も水が膨張して体積が増える。その境目が4度と言われてて。水温は4度が一番安定した状態。
寒漉き(かんずき)の紙はいいとか聞いたことありませんか?
冬場の水。寒漉きの紙は最高なんだよ。それはなんでかっていうと、水の温度が4度に近いから。井戸水でも冬場は10度近くあるじゃないですか。それを汲んで紙漉きの時には寒く冷たくなって、と思うけどな。ここのはもっと冷たいけどね。(笑)
俺は、夏場は漉かないよ。漉いたって、いい紙が出来ないから。
水との対話で紙を作っていく。
無心じゃダメだし、舟の水と対面して。要するにさ、材料を舟に入れるでしょ、で、かき混ぜて、だんだんと水が薄くなっていくじゃないですか。その辺も感じながら、もうこれ以上は作らないから、新しく材料入れなくちゃいけないなとか、そういうことを水と対話しながら、感じながら、紙を漉いていかないと同じ厚さになっていかないわけ。
ずっとぼーっとして漉いてれば、だんだん薄くなって、気付いた時にはもう材料もなくなって来たから、また足そうって。またぼーっとして。って全然厚さが一緒にならないじゃない。集中力。感じながらやっていかないと同じ厚さってできていかないから。
大井沢は特に雪が多いから、人が来ない。人が来ないから、じっと紙漉きができていいんじゃないかな。それでも1日漉いて一枚一枚はがして紙干ししてる時に、乾燥機からビリってはがした時に、ダメだなこりゃって思うこともあるし、この紙はいい紙だって思う時もある。
取材 和氣明子 (Akiko Wake/FUTURE'S)